最初のレコードは、ザ・ベンチャーズのパイプラインだった

祖父の家の蔵を改造して、我が家が曲がりしていたとき。
最初に聞いたレコードはザ・ベンチャーズのパイプラインだった。
テケテケテケテケと指をスライドさせて、高音から低音へ、という刺激的なサウンドがはやっていた。
そもそも洋楽など意識して聞いたことのない小学生の私は、そこにおかれていた小さなステレオから流れる音に驚いた。
あ、テケテケだ。
エレキ・ギターの奏でる音は、不思議な常夏の暑さを伝えてきた。
パイプラインとは、サーファー達にかぶるようにかかる大波の下が、丸いロールのように巻き込まれていく空間のことを指しているというのは、後でわかった。そのスリル感がテケテケなのだと。
さて、中学生には、それよりも、ステレオ・サウンドで聞こえている音の多様さに圧倒された。
夏休みでもあり、ザ・ベンチャーズの曲は随分聴いた。
周囲は、さぞ、ノイジーに思えたろうが、規制した孫や甥のしたいようにと思ってくれていたのだと思う。
時代は、一般家庭にコンパクトされたステレオが普及した1960年代半ば。
ザ・ベンチャーズのパイプラインは1963年にリリースされた 。

ナショナルテーブルステレオ SE-1350 華 (1967年) 写真は、日本写真博物館
https://www.japanradiomuseum.com/stereo1.html
サーファーたちの切なさ

随分後で映画ジョン・ミイリアム監督の『ビッグ・ウェンズデイ』1978年を見たときには、パイプラインの曲が一瞬よみがえった。
サーファーが待ち望む水曜日にやってくるといわれる大波をめぐって繰り広げられる映画のストーリーは、青春の甘酸っぱさがちりばめられていたが、それ以上に、当時のベトナム戦争に翻弄される若者たちの思いが重なっていた。サーファーたちのテケテケ感はいっそう刹那的なノリと影とを感じた。
1960年当時、大はやりしたエレキサウンドに、日本の若者たちの多くがアメリカの青年達が感じるこの切なさへの共感があったのかについては、はたしてどうだったのだろうか。