遠藤賢司 ”満足できるかな” 1971年

大きな刃のついたノコギリ
『満足できるかな』
♪ 君が持っている
大きな刃のついた ノコギリでもって
これ以上僕を きざもうっていうのかい
でも それで満足できるかな
君はとっても嬉しそうに僕の首を切る
あ〜ギーコラ あ〜ギーコラ
あギーコラ、ギーコラ、ギーコラ
でもあんまり音が大きいと ほら騒音防止法に触れるよ
誰だい 僕の真っ赤な血を舐めるのは
はあ 僕のちの猫の 寝図美ちゃんじゃないか
いいよたくさん舐めて 立派な化け猫になって
あの女を呪ってくれよ 頼んだよ
君はとっても嬉しそうだね もうすぐ全部切れるから
さあ頑張れよほら ほらもう少しだよ
頑張れよほら
あ〜でも それで満足できるかな?
でもそれで満足できるかな? ♪

化け猫化した寝図美ちゃんのイメージ
ギターとハーモニカ

演奏は遠藤賢司。
ハーモニカとギターによるロック調のハイテンポで軽快な曲が流れる。
日本の曲でロックが可能かとか言われていたらしい。
ハーモニカはテンホール・ハーモニカ(10穴ハーモニカ)でフォークブルース風の音。
もちろん、間奏。
これが、曲に色気をつけます。
さらに独特の裏声で叫ぶような歌声が、遠藤賢司しか歌えないオリジナリティを作り上げます。
詩の遠藤賢司らしさ
僕の恋人は、僕を自分好みの人間にしてしまおうって
頭のてっぺんからつま先まで好きなようにきざんで、
分解、解析、コントロールしようとしている、ようだ。
人格をきざまれる僕は心の血を流しているが、
そのことが痛みをもつにしても、
彼女の作業を、「熱心だね」と、ちょっとあきれ顔で、好きにさせている
そして「やるのはいいけど、それで満足できるかな」と思っている
きざまれる僕は真っ赤な血を流し続けていて、
飼い猫の寝図美がその血を舐めている
寝図美が妖描になるかもと思う僕は、彼女を呪ってよと頼む
もうかなりきざみこんだ彼女は、満足気である
僕は、僕は一歩引いて、頑張れよとかけ声までかけている
そして、「満足できるかな」といつまでも満足ができないだろう彼女の未来を思う。
では、どうしたら満足できるのか、って思ってしまう。
他人の人格に介入することを彼女がやめて、
僕が心の血を流さなくなったらなのか?
でも、この彼女の熱意を、
ある意味、くすぐったく受け入れている状況もやめたくはないのでは、とも思える。
この当たりは分かりにくいが、
どうでも良いノリのなか、僕の愛のパッシオーン(受難)は続いている。
遠藤賢司 ”満足できるかな”と騒音防止法
騒音防止法?
歌詞の中で、気になるのは「騒音防止法」だ。
これは騒音規制法を指していると思う。
1960年代末、戦後の日本資本主義の発達は、色々な問題を噴出させていた。
その一つが、公害問題だ。
最近では、パイレーツ・カリビアンで一躍有名になったジョニーディップが主演で映画『MINAMATA』2022年で、水俣病をめぐるアメリカ人カメラマンの関わりを描いている。
SDGsと言えば今では当たり前だが、公害闘争が全国に行き渡るまでにはそうした主張がはばかられる状況にあった。
やがて、水質、空気、など様々な非人間的環境な汚染に関心が払われるようになり、その一つとして、騒音は人体に対する音の暴力を抑制るための法的規制が必要だと認識されるようになった。
しかし、法的な規制をする際に社会問題の一つとして論点となったのは、拡声器などによる街頭宣伝の規制を理由に、自由な発言が非常に厳しく抑制されないかということだった。
少し後になるが、東京都は、1992年9月に「拡声機による暴騒音の規制に関する条例案」を提出し、その中では、10メートル離れたところで85デシベルといった規準を超えるものは「暴騒音」であるとした。これは、日常的な通行の中で発生する音量程度を「暴騒音」とするもので、拡声器による自由な表現活動を規制するものになる。さらに罰則規定などが不明瞭で警察などによる規制を合法化するものであるとして、日本弁護士連絡会の声明が出されている(日本弁護士連合会「東京都の拡声機による暴騒音の規制に関する条例案の上程にあたって」1992年 <https:////www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/1992/1992_10.html>)。騒音規制法は、こうした言論抑制を生み出す原因となりかねないと、疑念と批判が生じていた。
遠藤賢司らしい二重のメッセージ
恋人関係を歌ったシュールな歌の中に騒音規制への批判が含まれる。
そんなに夢中になって僕を大きな音をたてて僕をきざんでいても、大丈夫なの?
恋人の行為を揶揄する歌詞は、そんな規制がなかったらもっと快くきざめるのにね、という二重のメッセージになる。
ここにも、遠藤賢司の日常性を規準とする批判的なつぶやきが感じられる。
とはいえ、この恋人関係と寝図美ちゃんはどうなるんだろうと、
軽快なロック調の曲の中、ワクワクな余韻が続く。
※ 日常性を規準とする批判的なつぶやきについては、本ブログの遠藤賢司(1)カレーライスをご覧下さい。